インドネシア案件のレコード収録・コンテンツ収録

アジア特許情報研究会では知財庁データベースの調査をJETROバンコクから受託し報告書を納入しています。この報告書の中では、各国知財庁・WIPO PATENTSCOPE・DOCDB・FOPISER等の一般に無償公開されたデータベースについて、取り扱い説明・レコード収録・コンテンツ収録を報告しています。

しかし筆者が講師を務めるJIPA(日本知的財産協会)や民間会社の新興国特許調査のセミナーの中では、受講者の方から商用データベースの収録状況について質問をいただくことがあります。やはり使用方法に若干の癖がある「庁データベース」だけではなく、使い慣れた、調査機能・性能の優れた商用特許データベースを使いたい方も多いようです。

ここでは無償DBだけではなく、筆者が現在使用することができる商用データベースを含めて状況をご紹介します。調査した商用データベースは次の3種です。

略称会社名正式名
ORBITQuestel社Orbit Intelligence
DERWENTClarivate Analytics社Derwent Innovation
PATSNAPPatsnap社Patsnap

もっと多種のデータベースを調べてみたいところですが、調査のために有償データベースを個人契約するのも大変なので、この3種でご容赦を。

筆者のセミナーでは、特に侵害防止調査を実現するためにデータベースに求める必要条件として、次の4つの条件を取り上げ、これらをどの程度満たしているのかを定量的に紹介しています。

① 発行された案件が潤沢に収録されていること
② 特許分類の検索が有効に実行できること
③ キーワード検索による絞り込みと補完ができること
④ 査読により権利範囲を特定できること

ひと言で侵害防止調査とは言ってもプロジェクトの進み具合により調査に求める「深さ」が異なります。ご自分の業務では、どの程度のレベルが必要なのかを、ここでご紹介する情報を元に適宜判断していただきたい。

レコードの収録は?

各データベースのレコード収録をグラフ化してみました。

横軸 出願年  
左縦軸 件数 いずれかのデータベースに収録された案件の件数を棒グラフで表し、左縦軸に投影しています。
右縦軸 収録率 それぞれのデータベースに収録された案件の収録率を折れ線グラフで表し、右縦軸に投影しました。収録率の分子は収録件数、分母は各年の棒グラフの高さとしています。

インドネシア知財庁が運営するDGIPシステムとPatSnapはグラフ化した全期間に渡って高い収録率を示しています。PatSnapには若干の収録タイムラグがあるようです。DOCDBは1990年代後半の僅かな期間しか収録されていません。Orbitの情報源はDOCDBのようであり、折れ線が同じ形状を示しています。Derwentも2007年まではDOCDBと同形状。しかし2008年以降は新しい情報源に切り替えたようで収録が急上昇しました。この数年アジア地域の収録を伸ばしているPATENTSCOPEは2001年~2003年ごろに出願された案件の収録が悪いことがわかります。また収録タイムラグも大きいようです。

特許分類の付与状況は?

まずはIPC等の特許分類を使用して、詳細に査読する案件を絞り込むことが多いかと思います。新興国の特許にはIPCがまともに付与されていないという風説もあります。「まとも」かどうかを判断するのは難しいので、IPC付与個数を定量的に可視化してみました。

横軸は出願年、縦軸は各年の出願件数として棒グラフで表しました。棒グラフの色分けはIPC付与個数を表しています。

まずは知財庁データベースのDGIPシステムのIPC付与個数です。各年ともにIPCが全く付与されていない青色バーも視認できます。半数以上の案件には2個以上のIPCが付与されています。
次はWIPOのPATENTSCOPE。DGIPとほぼ同数のIPCが付与されています。
欧州特許庁のDOCDB。レコード自体の収録が乏しく、IPC付与個数グラフをお見せするまでもない気もしますが、現状の悲惨さをご紹介。
おそらくDOCDBだけを情報源とするOrbit。これも特許調査に耐えるものではありません。
2000年代初頭にはDOCDBだけを情報源としていたようですが、この10年ほどは他の情報源を使用していると思われるDerwent Innovation。DGIPに比べるとIPCが付与されていない青色バーが目立っています。
さすがASEAN生まれのPatSnap。グラフを見る限りではIPC付与個数はDGIPと同等。検索機能・性能の面から考えると、特許調査にはDGIPシステムより有効かもしれません。ただしこれは付与個数を比較したものであり、双方のデータベースに同じIPCが収録されているかどうかの検証は未実施です。

データベースにより付与個数(収録個数)は異なるものの、どのデータベースを使用しても複数のIPCが付与されているのは半数程度の案件です。たとえば、あるプロダクトを、あるテクノロジーで実現している特許を検索する際に、AセクションのIPCとHセクションのIPCをAND検索することもあろうかと思います。インドネシアの場合には、複数のIPCをAND検索すると半数程度の案件はもれてしまうことにご注意を。

キーワード検索は?

潤沢にIPCが付与されていない状況下では、たとえばメイングループまでの「広めのIPC」を使わざるを得ないこともあります。この場合にはキーワードを使ってAND検索することで、IPC検索した母集団を絞り込むことができます。またIPC検索でもれてしまった案件を補完するために、キーワードをOR検索することもあるでしょう。ここでは各データベースの、「発明の名称」と「要約」文字列の収録をグラフ化してみます。データベースによっては、発明の名称や要約に「-」や「None」のような文字列が収録された案件もあります。ここでは10文字以上の文字列が収録された案件だけを収録ありと扱って集計しました。

決して推奨できませんが、特許を調査しづらい新興国では、競合会社の出願だけに絞って調査することも多々あるようです。そこで出願人文字列の収録も評価してみました。

データベースごとの発明の名称の収録率を紹介します。Derwent以外は、レコード収録率グラフとほぼ同形状です。
続いて要約文字列の収録率比較。2006年~2010年ごろに出願された案件は要約の収録率が低いことがわかりました。「一次情報」となる知財庁情報に要約が収録されていないため、他のデータベースもすべて収録率が低くなっているものと思われます。不可解なのは2010年出願以降のDerwentの収録率。レコード収録は高いにも関わらず名称・要約の収録率が非常に低い値になりました。
出願人名収録はレコード収録とほぼ同じ形状の折れ線でした。データベースによっては、たとえば「IBM」のように出願人名の略称だけが収録されたものもあります。1文字以上の出願人名が収録されていれば収録ありと扱いました。

査読はできる?

言うまでもなく特許権は、特許請求の範囲(請求項)に記された内容が全てです。極端に言えば請求項を査読できない限り、該当特許の侵害有無を判定することができません。しかし困ったことにDGIPシステムには請求項は収録されていません。インドネシア知財庁では請求項情報を電子的に開示していないようです。ひと世代前のDGIPシステムでは、収録率は完全ではないものの、登録公報のPDFファイルをダウンロードすることもできたのですが、現状のDGIPシステムではフロントページPDFファイルしかダウンロードできず、権利範囲を特定することができません。

商用データベースによっては、「優先権案件」の請求項情報を載せているものもあるようですが、インドネシア特許自体の請求項は収録されていないようです。

以上、無償利用可能な各知財庁データベースに加えて、3種の商用特許データベースについても、レコード収録・コンテンツ収録を紹介させていただきました。インドネシア特許の調査においてご参考になれば幸いです。

アジア特許情報研究会 中西 昌弘